我思う、ゆえに我あり 2019 12 22
書名 決定版 量子論のすべてがわかる本
編者 科学雑学研究倶楽部 学研プラス
「CP対称性の破れ」
本書は、2015年に刊行された、
「量子論のすべてがわかる本」を全面的に改訂し、
新しい話題も多く盛り込んだ「決定版」だという。
旧版は、望外の好評を博し、
多くの読者に恵まれたという。
本の装丁は、青少年向けに見えますが、
内容的には、高校の物理のレベルでは、
理解が難しいものとなっています。
それでも、この本が売れたのは、
近年、「量子コンピューター」など、
「量子」という言葉を多く見かけるようになったので、
多くの人が関心を持つようになったからでしょう。
また、この本は、図や表が多く、
そういうものを眺めるだけでも、
現代物理学の「香り」を味わえるものとなっているのが、
この本が売れた原因でしょう。
価格も、600円なので、気軽に購入できます。
さて、興味深い図をひとつ取り上げましょう。
水素原子の図がありますが、
陽子は、プラスの電荷(Charge)を持った微粒子であり、
電子は、マイナスの電荷をもった微粒子ですが、
「C対称性」が保たれるというということは、
電荷の符号を逆にする「C変換」を行っても、
そこに働く物理法則が変わらないことを意味します。
水素原子に「C変換」を施すと、
陽子は、電荷がマイナスの「反陽子」となり、
電子は、電荷がプラスの「陽電子」となります。
つまり、「反水素」ができるのです。
しかし、水素も反水素も電荷が逆であるだけで、
そこに働く物理法則は同じであり、
「C対称性」が保たれるということです。
次に、「P(パリティ)対称性」が保たれるとは、
空間を反転させる「P変換」を施しても、
そこに働く物理法則が変わらないことを意味します。
簡単に言えば、鏡に映す「鏡像変換」のことです。
このような「C対称性」も「P対称性」も、
常に保たれるのが自然であると思われますが、
特殊なケースでは、どちらの対称性も破れてしまうことがわかっています。
この不思議を解明したのが、日本人科学者です。
ところで、「C対称性」で思い出したことがあります。
ある研究者が、原子から陽子や中性子を全部取り除いてしまうと、
そこに、また陽子や中性子が現れるか、
あるいは、原子から電子を全部取り除いてしまうと、
そこに、また電子が現れるかという研究をしていると聞いたことがあります。
現代物理学の思考実験の種は尽きない。
とかく、古典物理学から量子論を批判する時に、
「見れば、そこに月があるが、
見ていなければ、そこに月は存在しないのか」という批判があります。
確かに、月は存在するかもしれないし、存在しないかもしれません。
「我思う、ゆえに我あり」
(参考)
「宇宙には、CP対称性という絶対的な法則があると考えられていたが、
実は、そのCP対称性が崩れてしまうケースがあった」
(ジェイムズ・クローニン、ヴァル・フィッチ)